2016年7月29日金曜日

2014年 冒険の書 その6(北陸) #2

【2日目】8/3(日)
 0855起床。
 前日調子に乗って立山を呑んでいたせいか、快眠を通り越していささか寝すぎてしまった。

 宿を辞し、富山地方鉄道の電鉄富山駅へ向かう。
 駅のホームには、すでに黄色とエメラルドのツートンカラーの電車が停まっていた。
 もともとは京阪電鉄の電車だが、いろいろあってここで第二の人生を送っているというわけだ。
 もっとも、僕の目を奪ったのは、電車ではなくホームの壁にかけられた行先表示やヘッドマークの数々だった。こういうのは、見ているだけで楽しい。

元おけいはん

博物館かと見まごうばかりの表示板の数々

 僕が初めて富山地方鉄道に乗ったのは、1993年8月23日。この電鉄富山から途中の寺田という駅までだった。そこから先は未踏なので、今日はそこも一緒に乗ってしまう。

 僕が乗ったのは、宇奈月温泉行きの各駅停車。これで終点まで行き、そこから今日のお目当ての黒部峡谷鉄道に乗り換えるというルートである。

 途中、元・東急の電車とすれ違ったが、京阪と東急の組み合わせは、他所ではなかなか見られない。大井川鐡道ぐらいだろうか。

 寺田駅を過ぎ、いよいよ未乗区間。
 上市駅で列車の進行方向が反対になる、いわゆるスイッチバック構造になっている。
 普通、スイッチバックは山の中というイメージがあるが、この上市駅は平らなところに立地している。ここは、山ではなく、歴史上のいきさつでこうなっている。

 電車は富山平野を快走してゆく。途中、北陸本線との並走区間なども。

北陸本線と離合

途中、北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅などを見つつ、終点宇奈月温泉へ。

宇奈月温泉は山小屋風の瀟洒なつくり

 宇奈月温泉では、昔の西武の特急電車が停まっていた。これも懐かしい。

西武レッドアロー

 さて、いよいよ黒部峡谷鉄道の列車とご対面。それにしても列車が小さい。
 身長178cmの僕が客車に乗ると、頭がつかえそうになる。

 この黒部峡谷鉄道は、もともとは黒部川第四ダム、いわゆる「くろよん」建設のために造られた資材運搬線で、運行も関西電力の子会社が行っている。

 線路もJRなどと比べて狭く、762mmという幅を採用している。線路の幅だけでいうと新幹線の半分しかない。それでも鉄道であることには変わりはなく、鉄道である以上は乗らねばならない。
762mm 一跨ぎぐらい

 機関車は小さいながらも精悍な顔つきで、それが2両もつながっていてたくましい。
 客車はベンチシートが並んでいて、窓ガラスはない。
 車内と外との境には、鎖が張られているだけで、客車というよりはトロッコに近いものがある。

機関車

ボハフという形式もなかなか見かけない

 出発してから何度トンネルをくぐり、橋を渡ったかわからない。間断なく続く急カーブに車輪はきしみっぱなしだ。トンネルに入れば轟音。鉄橋を渡れば、視界を遮るものは何もない。車内はそのたびに歓声に包まれる。




 おもちゃのような列車に揺られて、1時間半ほどかけてゆっくりと走って終点の欅平。
一般客が乗れる列車はここまでだが、線路はこの先、黒部川第四発電所までつながっている。

終点 欅平

 帰りも黒部峡谷鉄道で帰る。
 行きは窓がない車両だったので、帰りはちゃんと窓がある車両に乗ってみようと思い、事前に予約をしておいたが、乗ったのは僕ひとりだけだった。雨でも降らない限りは、非日常を味わえる、窓のない車両のほうが人気のようだ。

帰りの列車 ホームはお客さんで鈴なり
窓がある客車 しかし小さい(僕が立って写真を撮るとごらんのとおり)

 途中の駅で、変わった貨車を見つけた。
 どうやらダムや駅で発生したごみを運ぶ貨車らしい。車体には「峡谷美人号」とある。

峡谷美人…?

 停まった駅で、ふと何気なく外を見たときのことだった。
 先頭にいる機関車を見ると、車体からものすごい勢いで陽炎を上げていて、奥の信号機が揺らいで見える。
 この機関車のブレーキは、モーターを発電機代わりにして発電し、その電気を抵抗器に流して熱として逃がすことで減速する仕組みになっている。
 その熱が、真夏の黒部の山々に、陽炎として逃げてゆく。
 S字の急カーブをしゃくるように曲がりつつ、機関車が客車たちを背負って、踏みしめるようにゆっくりと山を下りてゆく。それはまるで、自分たちだけでは走れず、止まることもできない客車たちを、俺たちが連れていくんだという機関車たちの気概のように見えなくもない。

陽炎を上げる機関車 僕はこれにハッとさせられた

 日ごろ鉄道を見すぎているせいか、鉄道を見て感動するということがあまりない僕でも、この陽炎を見たときは、パッと胸の中に何かが広がるのを覚え、そして息をのんだ。
 なんとうつくしく尊い鉄道の情景か。
 鉄道は美しい。そんなことは言われなくてもわかっている。
 だけども鉄道は時として、僕が思う以上に熱い一瞬を見せてくれることがある。僕はその瞬間を見たいがために旅をやめられずにいる。
 おそらく、全線完乗を果たしても、僕はその瞬間を観たいがために、旅を続けるだろう。

 列車は、宇奈月駅に戻ってきた。
 ここからまた富山地方鉄道に乗って、魚津でJRに乗り換えて、あとは家に帰るだけである。

富山地方鉄道本線&黒部峡谷鉄道完乗の祝杯

富山といえばこの組み合わせ

【今回の実績解除の記録】
富山地方鉄道本線(53.3km)
黒部峡谷鉄道本線(20.1km)

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