2015年1月31日土曜日

2014年 冒険の書 その5(北海道) #1

 北回帰線に涅槃を見た台湾旅から1ヶ月。
 南に続いて、僕は北へと向かった。
 僕の中で毎年恒例となりつつある、海の日の3連休を使った北海道の旅だ。

 北海道には、2010年の江差線完乗をピリオドに、地下鉄、路面電車を含め、もう未乗線区は残っていない。ただ、ジメジメとした本州を離れたいというただその一心だけで北海道へ向かうのだ。


【1日目】7/19(土)
 0500時起床。
 旅の興奮で寝付けなかったため、大変寝不足の身体をひきずって羽田へ。
 湘南新宿ラインで恵比寿へ行って、山手線に乗り換えて品川。品川から京浜急行で羽田入りした。

 出発時刻まで、恒例のてつおたがヒコーキを眺めてみた。

▼機材がわからないでござる。

 羽田0900時発の全日空55便で千歳へ。
 機材は767か。相変わらずさっぱりヒコーキは分からない。

▼767ちゃん…?

 千歳には予定より少々遅れて11時前に到着。
 若干暑いものの、カラッとした空気が僕を迎えてくれる。これが北海道だよ。

 新千歳空港駅で、一日散歩きっぷ(¥2260)を購入。
 これがあれば、今日いける範囲のところはたいてい回れるはずだ。

▼何だかんだで札幌から半径150kmぐらいの範囲までいける。

 快速電車で札幌駅に向かう。
 札幌駅でいったん改札を出て食事を済ませ、快速電車で小樽へ。

 朝里界隈で車窓の海を見ていたら、北海道の短い夏を精一杯享受せんと、浜で寝そべってる人たちが見えた。しかし誰も泳いでいない。さすがに泳ぐには寒いのだろうか。

 そういえば昔、初めて北海道に来たときに、快速らんしまという海水浴客向け列車を見たなあなどと思っているうちに、電車は1416時、小樽着。

 乗り換え列車まで時間があるので、小樽駅前でしばらく時間を潰す。

▼小樽駅前。

 小樽駅の売店でサッポロの缶ビールを買い、ついでにパン屋でソーセージパンなど、ビールに合う惣菜パンをいくつか買い込み、1両編成のディーゼルカーに乗り込む。

 最初は比較的席に余裕があったが、接続の列車が着くたびに、車内は余市に行くのか、はたまた倶知安に行くのか、だんだんと老若男女が集まってきて超満員に。
 最初は僕だけが占していたボックスシートにも中年の女性二人組と老齢の紳士が乗ってきて、女性二人組は僕の対面に、紳士は僕の左に。さすがの僕も、ボックスシートで見ず知らずの人と相席しながら酒をガバガバ呑るほどのクズではないので、ここはぐっと、ボックスシートの隅っこで缶ビールとパンを抱えて小さくならざるを得ない。そうこうしているうちに、ディーゼルカーは、定刻どおり1450時、エンジンを盛大に吹かして小樽を後にした。
 
 函館本線のうち、僕がこれから乗る小樽から長万部までの間は、通称「山線」と呼ばれる山越え区間に当たる。蒸気機関車が現役だったころは、国内最大級のC62形という機関車が重連で険しい山道を行ったり来たりしており、その迫力たるや鬼気迫るものがあったと聞く。
 僕は残念ながらその時代を知らないが、ディーゼルカーの重たい足取りと、やむことのないエンジンの唸りにその険しさを実感する。

▼さわやかな夏空の下、塩谷駅でエンジンを休ませて小休止。

▼蘭島駅にて。対向列車も満員。何があった。

 僕が乗っているキハ40というタイプのディーゼルカーは、重たい車体に低馬力エンジンの組み合わせで、お世辞にも高性能とは言い難い。いわんや坂道には大変弱い。
 ディーゼルカーは一般的にトルクがあって、さらにトルコンのトルク増大効果も利して、坂を登ることは造作もないが、いかんせんスピードが出ない。
 どう早く見積もっても35km/hぐらいのスピードで、20パーミルの坂を苦しそうにのろのろと登ってゆく。

 そして、いかに夏の北海道が涼しいとはいえ、クーラーもない車内で超満員ともなれば、だんだんと蒸し暑くなってくる。
 車内のいたるところの窓が開け放たれており、それはそれで心地よい風が入ってくるが、列車の窓というのは、案外早く走っているときよりも、のろのろと走ってるときのほうが風が吹き込むもので、常にのろのろ走るディーゼルカーのせいで、僕は風を顔面にもろに浴び続けていた。
 トンネルなど来ようものなら、車内にはそれこそこの世の終わりのような轟音とともに狂風が吹き渡り、対面の女性の髪も一瞬でぐしゃぐしゃになってしまう始末。
 僕もいい加減たまったものではないので、トンネルに入るたびに窓を閉めていたが、次第に相席の女性も気の毒になったようで、そのうちトンネルが来ると「閉めましょうか?」と聞いては、開いた窓を下げるのを手伝ってくれるようになった。仲良くなったのはいいが、残念ながら彼女は僕より一回りぐらい年上のようだった。

 そんな共同作業を繰り返しながら、倶知安(くっちゃん)には1617時着。
 あれだけいた人たちのほぼ全員が降りてしまい、僕の座っているボックスシートも僕一人となってしまった。

 車内が閑散としたところで僕もホームに降り立ち、写真をぱちぱち。
 さっきまで散々のろいだ重いだ何だと腐したキハ40だが、彼女たちは旅屑にとってかけがえのない戦友であったり友達でもある。日本中どこに行っても、彼女たちはこの顔で迎えてくれて、見知らぬ街や山や海まで連れていってくれる。ありがたいなあ。
 彼女たちのエンジン音は胎児が聴く母親の鼓動のようなもので、僕たち旅屑はその音を聴くと、何だか分からないけど、どこかホッとするものがある。

▼見慣れた顔立ち。


 ただ、全国各地で彼女たちの後継者たる新車がぞくぞくと登場している今、その命脈も徐々に消えてゆくだろう。
 実際に各地で少しずつ廃車になって、その数を減らしている。
 電車は愛でられるうちに愛でる、これはてつおた趣味の大原則だが、実際にはおっくうだったり時間がなかったりで、なかなか実行するとなるとできないものだ。

 倶知安では25分も停まるので何事かと思っていたら、後ろにカラの車両を1両つなぐという。

▼連結作業など。

▼新しくつながった817号車ちゃん

せっかくなので、僕は連結作業を見学した後、新しくつながった空車に移動して、すかさず缶ビールを取り出す。ぬるくなった缶ビールを窓際に置いて、しばしの至福の時。

▼はあうめえ。


 倶知安を出ると、2両になった列車は今までの苦しい走りから一転、峠を転がるように降りてゆく。車内にはどうみても旅行者かてつおたの人が2名と、女子高生が1名、それに僕を入れての計4名。
 ボックスシートに足を投げ出したり、時刻表を見たり、スマホを触ったり、酒を呑んだり、みな思い思いに時間を過ごしている。まあ、酒を呑んでるのは僕だけだが。

▼旅だにゃあ…。

ダラダラと缶ビールを呑みながら、連綿と続くガタンゴトンのサウンドに逝きかけつつ、函館本線の線路の砂利になりてえなあ、でも冬はさみいなあなどと酩した頭で考えながら外を眺める。

▼ガタンゴトンガタンゴトン…

 比羅夫、ニセコ、昆布、蘭越…北海道らしい名前を持つ駅を通り過ぎつつ、車窓はだんだんと夕暮れにそまってゆき、車内の旅屑たちも無言でこの恍惚とした空気を共有しているのが分かる。夕焼けとは反対側の窓には羊蹄山も、しかし写真を撮らなかった僕bkbkunk。

 ▼行き先表示の札が現役なので北海道はずるい。

 蘭越で対向列車と行き違い。
 向こうはさっき蘭島でも見かけた新型ディーゼルカーだった。この子は窓が開かないので旅にはちょっと…。

▼旧型と新型

 列車はやがて右に進路を取り、左側から室蘭本線を迎えると、終着の長万部に到着。時すでに1835時。
▼長万部着


 ここで臨時の特急北斗93号札幌行きを待ち、東室蘭へ向かう。
 このときJR北海道では、度重なる特急車両のトラブルにより、臨時ダイヤを施行していた。

 5分ほどしてやってきた特急北斗は、僕の予想と違い、古い車両をつらねた編成だった。臨時列車なので予備の車両をかき集めたらしく、とにかく、北斗にキハ182-43とか、これは熱いと言わざるを得ない。たぶんてつおたにしかわからないだろうが。
 一瞬、このまま札幌まで乗っていってしまおうかと思ったが、そうするとせっかく買った一日散歩きっぷが息をしなくなるので、車内で車掌から東室蘭までの乗車券と自由席特急券を買っておとなしく東室蘭で降りた。

▼東室蘭にて

 洞爺、伊達紋別と停まり、東室蘭1938着。
 東室蘭では、明日以降に使う18きっぷを買っておいた。

▼旅屑の青ジェム・18きっぷ

 ここで2040時まで1時間ほど待ち、札幌への直通鈍行の人になる。
 この札幌行きの直通鈍行というのがヒトクセあって、あまたある札幌駅発着の鈍行でも、電車ではなくディーゼルカーで札幌駅まで入る鈍行列車というのは、1日数本と皆無に近く、今日はその1本に乗ってみようと思った。
 ディーゼルカー好きとしては、2時間半もそれに乗り続けられるだけで十分ありがたい存在だ。

 長距離を走る鈍行というのは、昔はそれこそ東京発島田行きとか、米原発熱海行きとか、下関発岡山行きとか、秋田発新津行きとか、上野発四ツ倉行きとか、当たり前のようにごろごろと毎日走っていたので、乗ろうと思えばいつでも乗れたものだった。

 しかし最近の潮流は、どうも鈍行の走る区間を細かく区切って、長距離移動は単価の高い新幹線や特急に客を誘導するのが当たり前になっている。

 まあ、そうすればJRも儲かるし、乗る側も、新幹線とか特急ならば1時間の区間を、わざわざ3時間とか半日とか乗り通してゆく物好きもそうそういないので仕方ないのだが、鈍行のぶつ切りは僕たち旅屑としては旅が不自由になる原因のひとつでもあり、時刻表を開きながら頭を悩ますことになる

 たちが悪いと、わざわざ鈍行同士を接続させないようなダイヤになっていて、今乗っている列車があと10分早く着けばあとの列車にスムーズに接続するのを、5分ぐらいの差で乗り継げなくて1時間待たされるなどの例もあって、こういうことをやられると、時刻表を前に、なんとも言いようのない憤りにさいなまれたりもする。

 そんな旅屑の鬱憤とは無縁の、2040時発札幌行きの長距離鈍行は、ヘッドライトも煌々と、だけどもしずしずとした足取りで、東室蘭駅のホームに入ってきた。

▼まぶしい

▼約2時間半。札幌まで129.2kmの旅路。

 今日は土曜日。仕事の人もおり、車内は帰宅列車の様相を呈している。この中で札幌まで乗り通そうという者は僕ぐらいだろう。事実そうだった。
 東室蘭から一駅ごとに徐々に客を下ろし、苫小牧に着くころには閑散としたものの、苫小牧でまた混んで、一駅ごとに徐々に降ろしてと、大きな駅で客をどっと集めてはそれを小さな駅で降ろしてゆくという作業を延々と繰り返してゆく。まるで郵便屋が手紙をポストに配達するかのごとく。

▼このあと滅茶苦茶混雑した。

 旅屑にとってはありがたい長距離鈍行であっても、地元の人々にとっては、それがたまたまどこか知らない遠くの駅まで行くだけであって、単に都合がよい時間帯に走っている列車のひとつでしかないのだろう。

 JRもそれに気づいて、長距離を各駅に停まりながら延々走らせるよりも、短距離の往復で列車の回転を上げたほうが、乗務員や配車管理の効率もいいし、サービスアップになるという理由で、長距離鈍行は次々となくなっていった。今残されている長距離鈍行たちは、たとえば車両を車庫や工場へ回送するついでにとか、その逆に車庫や工場から離れた路線まで車両を送り込むときに、ついでに客を乗せるぐらいの気持ち、つまり回送のついでにせっかくだから客も乗せてやろうぐらいのレーゾンデートルで、細々と残っていることが多い。

 でも、僕はそんな実利とは無縁の世界から、時刻表に細かく発着時間が刻まれた長い1行を見つけると、それを最後までたどっては、その風景や旅情に思いを馳せる。長距離鈍行には、短距離を小刻みに走る列車にはない空気があるのを僕は知っているので、自然と乗りたくなる。

 列車はエンジン音も高々と、室蘭本線の日本一長い直線区間をぶち抜いて、苫小牧の街にただよう紙の匂いにむせ、千歳を発着する飛行機を横目に見ながら、定刻2310時札幌駅に滑り込んだ。

 こうも長く乗っていると、別れるのに一抹の寂しさを感じるのも、長距離鈍行ならではの風情である。

▼札幌駅にて。

 せっかくの札幌なので、軽く酒を呑んでもよかったが、早起きと長旅の疲れもあったので、地下鉄の豊水すすきの駅界隈に予約してあるホテルへ一直線。
 翌日の夕方には北海道勢による歓迎委員会も予定されているので、札幌での酒はそれまでお預け。

 たのしい北海道1日目、おわり。

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